先の支払いを現金化するという目的で使える手段にはファクタリングの他に手形割引があります。
しかし、手形割引は手形の制度や仕組みを理解していないと、現金化できないという盲点があります。
そこで、手形の制度的な説明を加えつつ、ファクタリングと手形割引では、現金化としてどのような違いがあるのかについて紹介します。



ファクタリングや手形割引による現金化について
ファクタリングは、売掛債権を専門業者に譲渡する代わりに現金を受け取れるサービスの総称です。
貸金業法に抵触する給与ファクタリングなどと名前が似ていますが、正式なファクタリングは売買取引に関連しているため根本的には異なる現金化サービスです。
売掛債権とは、具体的には貸借対照表で資産扱いされる「売掛金」のことです。
これを支払日より前に現金にできるという特徴があります。




ファクタリングの種類
ファクタリングの種類には、
- 「2社間ファクタリング」
- 「3社間ファクタリング」
があり、3社間ファクタリングのほうが要件が厳しい代わりに手数料が安いというメリットがあります。
取引先には内緒でファクタリングを行う場合、手数料は若干高くなるが2社間ファクタリングを使うのがスタンダードです。
ファクタリングの売掛金と類似しているのが以下で説明する「手形」です。
手形とは
手形は、商品の代金などを会社が支払うときに現金の代わりに渡す書類です。
手形の種類には
- 「約束手形」
- 「為替手形」
があり、一般的には約束手形が使われます。
約束手形では、手形として成立するための「必要的記載事項」を書き込む必要があるのです。
その中には、
- 振出人、宛名人、金額、支払期日を含めた4W2H
- 収入印紙添付
の計8箇所の記載作業を確実に行わなければなりません。
このように、約束手形を有効なものとするには必要事項を満たしていることが条件です。
手形を発行することを振出、手形の作成者を振出人と呼びます。
振出人が手形を作成するには、手形の書類をただ作成するだけではダメで、当座預金を開設して専用の手形をもらい、そこに記載する必要があります。
ただし、手形は記載事項さえそろっていれば機能するものなので、私製の手形も存在します。
しかし、私製手形は割引などができないため、専用の用紙に手形の必要事項を記載して振出をします。
ファクタリングが手形割引と異なる点


ジャンルが違う
ファクタリングと手形割引は、
- 支払われる前に現金化できる点
- それ自体を先々の資産として計上できる点
が似ています。
しかし、実際に現金化を利用した際の制度・法制上の分類がファクタリングが裏書・手形割引では異なります。
まず、銀行が正式に認めている制度として存在する手形は、有価証券の金融ジャンルに該当します。
手形貸付のように融資の形で用意られることもあるのです。
手形を電子化したものは「電子記録債権」と呼ばれ、実物の書類から電子化の以降の流れを組んでいます。
一方、ファクタリングは売掛債権の売買として扱われます。
つまりジャンルとしては商取引のジャンルです。
売掛債権そのものを銀行に持ち込んでも現金に換えることはできないなど、利用上の幅は手形の金融ジャンルほど広くありません。
手形は手形割引にすることで銀行に直接現金化をしてもらうことが可能です。
ファクタリングの売掛債権は最初からそのような利用の仕方を想定していないため、あくまでもファクタリング業者を介した現金化となるという点で異なるでしょう。
手数料
ファクタリングが手形割引と異なる点として、手数料が利息扱いとなるかどうかです。
ファクタリングでは、基本的に手数料が利息ではなく取引手数料として捉えられており、特に2社間ファクタリングでは法外な手数料を取られます。
ファクタリングと手形割引の手数料の違い
- ファクタリング:20%以上の手数料がかかる業者も少なくないなど、普通の返済期日となる支払日から計算してたった数ヶ月の利息が年率でいうところの400~500%近い金利となる
- 手形割引:法定利息に収まる年率4~15%を期日までで計算して手数料として負担するのが原則
つまり、ファクタリングは手形割引より圧倒的に手数料が高いのです。



責任の有無、リスクに差がある
ファクタリングは、手形と比較して
- 責任の所在
- 最終的な債権保持者
が異なります。
まず、ファクタリングの売掛債権は、買取方式で譲渡する場合に売った側は支払われないというリスクがあります。
これは3社間ファクタリングより2社間ファクタリングで問題としてあげられるケースが多いのです。
特に、取引相手からすれば、いつのまにか債権を持つ人が代わっていることになるため、大きな信用問題となることもあります。
しかし、責任の有無でいえば、売買が成立した債権は自社で支払先に請求しなければならず、その負債を保証する必要が原則的にはありません。
補填を求めることができない
例えば、100万円支払われる予定が、実際には支払われず、ファクタリング業者は損失を出します。
そのリスク込みで債権を買い取っているため完全買取契約をしたケースでは、ファクタリング業者は債権の売り主にその負債の補填を求めることができないのです。
ただし、契約のうえでその損失保証を全額求められるとした場合は、ファクタリング業者が利用者に全額弁済を要求できます。
これを債務不履行の際に責任が生じる「償還求償権」としています。
これに対し、手形は手形割引の場合、譲渡した銀行が責任を負う一方で、不渡りの場合には買い戻しが発生します。
裏書手形では
- 振出人
- 受取人(譲渡元)
が支払いの責任者となります。
万が一支払われなかった場合、手形割引は買い戻しという形で割引の利用者がその負担とリスクを全て請け負い、裏書手形は振出人と受取人がリスクを順番に引き受ける形です。


信頼度
ファクタリングの売掛債権と手形割引では根本的に信頼度が異なります。
まず、売掛債権は、代金が支払われないからといって何かペナルティがあるわけではありません。
そのため、売掛債権を所有しているだけでは何の保証にもならず、現実的な信頼度もさほど高くありません。
信頼度が高くないことから悪質なケースも
支払期日を遅れたら取引先からその理由が告げられるだけの悪質なケースもあります。
下請への誠実さやモラルを考えるといけない行為ですが、実際にありえる状況です。
ファクタリングの売掛債権にはそうした信頼度の低さを前提に、いざとなったら裁判でしか決着を付けられないというデメリットが存在します。
しかし、手形は銀行のルールで明確に規制されており、支払期日までに支払いが行われないことを繰り返すことで銀行取引停止処分などの高いペナルティがあります。
つまり、手形割引は売掛債権に比べて支払いの強制力があるのです。

期日
ファクタリングが対象とする売掛債権と手形では、ベースとなる
- 支払期日
- 期間
が異なります。
特に期間が長いことで知られるのが手形です。
約束手形では支払期日までに3~4ヶ月が標準的なルールが大手から下請けへの期間として成立しています。
手形は期間が長すぎる特徴がある
実際、手形は期間が長すぎるとして60日以内に短縮する方針が経産省から出るなど、これまでの手形のあり方は期間が長く現金受取までに時間がかかっていた事をあらわしています。
売掛債権は、約束手形のような暗黙の期日はなく、企業が支払った時期をそのまま期日としています。
その場合、
- 請求書
- 契約書
で支払日を取り決めることが多く、長くても1~2ヶ月程度です。
このように、実際に現金を付けとるまでの期間の長短が異なるのです。
ファクタリングの場合、短い期間をさらに現金化まで短くすることから、手数料を払ってさらに期間を縮めたいときにだけ使われるというのがわかるでしょう。
どんな場面で利用するか
現金化をするに当たり、ファクタリングの売掛債権の売買と手形割引の譲渡では、利用する場面に違いがあります。
まず、手形割引の譲渡では、手形として振出人が書類を発行し、支払いの代わりとしている事が前提となります。
つまり、手形割引の譲渡をするためには、そもそも手形が発行されていないと譲渡を行えないことを意味します。
手形割引の譲渡を利用する場面としては、支払いとして手形を取引で渡された際に、至急の
- 支払い
- 資金調達
が必要になるようなシチュエーションです。
次に、ファクタリングの売掛債権の売買は、手形という形で存在している必要はなく、
- 請求書
- 契約書
などの売掛債権が経理上にその取引可能な形で存在していれば利用できます。
つまり、ファクタリング業者が買取可能な売掛債権があれば、それを特殊な契約により売買できるのです。
ファクタリングを使う場合は、手形割引とは異なり支払期日が翌月などの場合に先に現金を入手する手段として使われます。

ファクタリングと手形割引のどちらが良いか?



審査は2社間ファクタリングが甘い
ファクタリングでは、審査に通過しなければ利用できないという点で手形割引の譲渡と同じです。
しかし、2社間ファクタリングは先にも述べたように手数料が高い代わりに審査が通りやすいという特徴があります。
そのため、現金が必要だがその手段がなくどうしようもない経営者が利用する場合に、手形割引よりファクタリングが向いています。
手形はそれを所有していなければ譲渡できないという制限があるうえに、審査では
- 企業の健全性
- 不渡りの危険性
などがチェックされ、譲渡後に不渡りが生じれば買い戻しのリスクまであります。
その点、多少手数料が高くても問題ないという方はファクタリングが適しているでしょう。
手数料は手形割引が安い
ファクタリングは手数料がかかっても利用したい場合におすすめです。
しかし、手数料が高いと資産が減少して困るという会社があります。
そこで、手形割引は手数料が安いというメリットがあります。
ただし、手形がない場合には手形割引の譲渡は行えないため、売掛債権では多少手間のかかる契約が必要な3社間ファクタリングを利用する手があります。
手数料が2社間より低く設定されており、
- 取引手続きが複雑化しやすいこと
- 審査が厳しい
という点を除けば低負担で現金化できる方法です。
不払いリスクはファクタリングのほうが高い
ファクタリングは手数料が高い代わりに現金化を即日できる方法ですが、不払いリスクが高いことに気をつけなければならないのです。
不払いリスクとは
不払いが起こるリスクがどの程度あるかということです。
手形では不渡りの買い戻しリスク、売掛債権では償還リスクのことです。
この場合、リスクが高いのは手形よりも売掛債権です。
売掛債権は金融ルールで守られていない分、リスクも高いのです。
したがって、不払いのリスクまで考慮した場合、ファクタリングに比べて手形割引のほうが後々のリスクは少ないでしょう。


場面に応じてファクタリングと手形割引を使い分ける
今回はファクタリングと手形割引の違いについて解説しました。
ファクタリングは
- 不払いのリスク
- 手数料が高い
という点がデメリットとしてあります。
一方で、手形割引は手数料が安い代わりに、手形を発行していないと譲渡が利用できず、また銀行の審査は厳格で買い戻しのリスクがあることです。
現金化においては、どちらを利用すべきか状況や場面に応じて使い分けるのが正解です。
たとえ手数料が多く取られても審査が甘く、現金化をすぐにできるファクタリングをまずは検討しましょう。